・イフェ |
アフリカのブロンズ彫刻の中で、というよりもアフリカ美術の歴史を通じてもっとも有名なものの一つがイフェ王国のブロンズ彫刻群である。
イフェはナイジェリア南西部、ニジェール河下流域の西に作られたヨルバ諸国中最古の王国であり11Cごろに建国されたと考えられている。伝承によれば、天の神オロルンがイフェの初代王オドゥドゥワをイフェの地に遣わし、イフェ王国が生まれたとされている。その後各地に建てられたヨルバ諸国の建国者はすべてこのオドゥドゥワの息子と言われている。
イフェ以後のヨルバ諸国はイフェをヨルバ発祥の地としてあがめ、宗主国として、また宗教的聖地として尊重したため、世俗的なの国力はさほどでもなかったにもかかわらず全ヨルバ諸国の中で特権的な地位を享受し、その宗教的権威によって19C末まで存続していた。現在でもヨルバ人の宗教的、精神的な聖地としての地位を保っている。
イフェ王国の宮廷美術、つまり有名なイフェの青銅またはテラコッタ製の彫刻はその写実性と完成度の高さにおいて、世界的に見ても最高の水準に達していると評価されている。
イフェのブロンズ彫刻としては特に王や廷臣などをモデルにした頭像・胸像が特によく知られている。
*写真下段奥三点がそのレプリカ。手前の平べったいような人物像はおそらくニジェール河下流域で発掘されて詳細不明なブロンズ彫刻群のレプリカ
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・ベニン王国 |
上記のイフェに負けず劣らず有名なのがベニン王国の宮廷で用いられた数々のブロンズ彫刻である。ベニン王国は現ナイジェリア南西部ベニンシティーを都とし、13Cごろに形成されたエド人の王国であり西のヨルバ諸国の文化的、政治的な影響を強く受けていた。
初期にはベニンシティー周辺のみを支配する都市国家であったが、15C半ばにはすでにかなりの規模の国家となっていた。15C半ばに即位したエウアレ王の治世下さらに領土を拡大し、国家組織の整備に努めた。その後も英明な君主が何代か続き(エシギエ王など)、ヨーロッパ人との交易(15C末〜)で栄え、16、7Cには東ギニア最大の国となった。17C末から国内の反乱、西のオヨ王国からの圧迫などで国力が衰えはじめ18C末にはもはや滅亡寸前であった。
19Cにパーム油の交易などで一時勢いを取り戻したものの19C後半に相次いだイギリスとの紛争の末1897年に滅亡した。
ベニン王国では宮廷美術が発達し特に青銅彫刻、精緻な象牙細工などがよく知られている。様式化された大きな瞳と鼻、彫刻中の人物が身につけている衣類や装飾品の緻密な描写などが特徴であり、中でもさまざまな場面でのオバ(王)の姿を浮き彫りにした青銅版、彫刻を施した象牙を立てるための人頭型の青銅製の台(王の肖像とも言われている)などは非常によく知られている。ベニンの青銅彫刻はアフリカ美術史上でも最高級の評価を受けていて、なかには競売で470万ドルの値がついたものもある。
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・アシャンティ |
アシャンティ人はガーナで最大の人口を持つ民族。主にガーナ中部が居住地域でありアカン系言語を話す。アサンテとも呼ばれる。
8C〜11Cにかけて現モーリタニアに栄えた古代ガーナ王国の末裔との伝説を持っている。17C中頃までは周辺の強国デンキイラやアクワムに貢納するいくつもの弱小国家に分かれていたが、17C末ガーナ中部クマシの王オセイ=トゥトゥがアシャンティの小国家群を統一して(統一の結果アシャンティ民族というアイデンティティが形成されたともいえる)、クマシに首都を置くアシャンティ連合王国をつくった。
連合内の各王国の王はそれぞれの国、氏族を象徴する床几を持ち、連合国王は黄金で飾られた床几を持っていた。その黄金の床几はアシャンティ民族全体の象徴とされ現在まで受け継がれている。
この王国は19世紀末から20世紀初頭の数十年にわたり英国の植民地化に対して激しい抵抗を繰り広げた。アシャンティ王国は現在まで続いていて王国の首都クマシの王宮には廷臣に囲まれて国王(世俗権は無い)が住んでいる。
工芸技術にも優れアクワバ人形、ケンテ布、アディンクラ布、豊富に取れる金を使った金細工などやアシャンティ独自の様々な紋章を施した工芸品を作ることでも知られている。中でもケンテ布はアフリカの布の中で最高の評価を受けている。
ガーナなど金が豊富に取れる地域では、金の計量のためにブロンズ・真鍮製などの分銅が盛んに作られてきた。当初は単純な幾何文様が刻まれていた分銅はやがて、失ろう法によって複雑な文様・ことわざ・様々な動植物をかたどったミニチュア工芸品へと進化していった。ガーナ共和国をはじめとするアカン系住民の多い地域では今日でもこの伝統を受け継いだブロンズのミニチュア彫刻が多く作られ、地域を代表する工芸品のひとつとして知られている。
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・ガン/カン
(ブルキナファソ) |
ブルキナファソ南西部を主な居住地とする少数民族。周辺民族から様々な呼称で呼ばれているが自称は「カン」である。グル語系の言語を持ちロビと近縁である。彼ら独自の宗教観・世界観に基づいた複雑なシンボリズム体系を持ち、それらをあらわす精巧で美しいブロンズ彫刻(主に装身具)を作ることで知られている。
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・ブルキナファソの
・現代ブロンズ工芸 |
現代西アフリカにおけるブロンズ彫刻・工芸の中心地のひとつがブルキナファソであり、どうやって運ぶんだという巨大なものから、小指の先ほどの小さなものまでさまざまなブロンズ彫刻が作られている。これらのブロンズ彫刻はブルキナファソの現代工芸の代表格として人気が高く、ブルキナの首都ワガドゥグにはブロンズ工芸の専門店が軒を並べている。モチーフも動植物から人像、仮面・立像などの伝統的な木彫をモチーフにしたものまで幅広く、様式も写実的なものから、モチーフの特徴を強調・デフォルメした造型のものまで、伝統的なものからモダンなものまで様々である。
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・ブロンズビーズ |
アフリカ各地で金属製のビーズが作られているが、ブロンズ製の精巧なビーズとしてはガーナ(アシャンティ人?)やコートジボワール(バウレ?)のものがよく知られている。
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