クロスリバー流域の髑髏仮面(ナイジェリア)
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*本稿はアフリカの伝統的な木彫文化についての記述です。
現代の木彫工芸には当てはまらない記述が多く含まれています。
〜アフリカの木彫〜
アフリカにおける木彫の起源ははっきりとはわからないことが多い。シロアリや気候の影響で木はすぐに風化、劣化してしまい、古い物はほとんど残らないからである。しかしアルジェリアのタッシリ=ナジェールをはじめとするサハラの岩面画群には、仮面を被った人物と思われる絵(狩猟民の時代の壁画:6000〜8000年前頃)が多数残されている。
また、木彫ではないが現在わかっている限り(遺物が残っている)最古クラスのアフリカの彫刻文化としては、ナイジェリア中北部ジョス高原に前1000年頃〜後200年頃にかけて栄えたノク文化があげられる。代表的な遺跡の名をとってノク文化と呼ばれるアフリカ最古の鉄器文化は、粘土製の彫像(人物像、動物像等)でも有名であり、これらの土偶はサハラ以南のアフリカの彫刻文化として現在遺物が残っている中では最古の物の一つである。
さらに前4Cごろ〜15Cごろにチャド湖畔に栄えたサオ文化(チャド文化)においても人をかたどった粘土像がつくられ、仮面をつけた人物像と考えられている一群の粘土像はアフリカの仮面文化の貴重な資料となっている。
くわえて西アフリカの大河ニジェール川流域では中・下流域一帯(マリ・ニジェール・ナイジェリア・ちょっと外れるけどブルキナファソなど)から、古いものでは紀元前2世紀頃にさかのぼると見られる素焼きのつぼ、塑像が大量に出土している。古いものがほとんど残っていない木彫品の代わりにこれらの年月を経てものこりやすいやきもの彫刻や青銅彫刻を通じて古い時期のアフリカの木彫文化の一端を垣間見ることが出来る。
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アフリカ大陸の広さ、そこに住む民族の多様性を考えても「アフリカの彫刻」と一括りに論じることは不可能には違いないが、そこにはいくつかの共通的な性格を読み取ることができる。
アフリカ彫刻の特徴としてまず上げられるのが円筒的性格である。丸太や木の枝から作られるということも原因のひとつと思われるが、アフリカの彫刻家は作品をひとつの円筒として捉える。彫刻の形は円筒の垂直軸に対応して決められるのでアフリカの彫刻の第二の特徴として左右対称性が上げられる。この円筒的性格と対称性がアフリカ彫刻の持つ力強く堅牢な印象を作り出していると言えるだろう。
サハラ以南のアフリカにおける木彫(仮面・彫像)は農耕民の文化であり、遊牧民・狩猟採集民などは家具や道具としての木彫は行うが仮面文化を持たず、また木彫り像製作もほとんど行わない。また伝統的木彫(仮面・彫像)文化は主に西・中部アフリカで盛んであり、東・南部アフリカではそれほどでもない。
西・中部アフリカの彫刻は大まかに民間のものと宮廷美術に二分できるがこれはあくまで大まかな分類に過ぎず、この分類に当てはまらない事例も数多く見られる。
王制が発展しなかった地域では当然のこと宮廷美術は存在せず、仮面や彫像の制作はもっぱら民間の需要(伝統的地域共同体の祭礼・儀式のため。または一族の祖霊像、呪術像などの比較的個人的な必要)によって製作された。また現マリのようにガーナ・マリ・ソンガイなどの大帝国が栄えたにもかかわらず宮廷美術と呼べるような木彫文化が発展しなかった地域もある(私見ではあるがマリ・ソンガイ帝国の皇室はイスラム教徒であったため偶像崇拝につながるような仮面・木彫り像文化が宮廷美術としては発展しなかった可能性がある)。アフリカ美術の大部分はこれらの民間芸術に属するが、傑作として現在美術館・博物館などに収蔵されているものにはやはり宮廷美術が多く含まれている。
強力な王制が発達したいくつかの社会(代表的な例としてヨルバ、フォン、バコンゴ、バクバ・バルバなどが挙げられる)では、王や王族のためだけに、専門かつ一流の職人があまり予算の縛りもなく作ることのできる宮廷美術が発展し、その作品には完成度の高い一級品が多い。これらの社会では民間と宮廷美術という2つの異なる様式の美術がつくられていた
上で述べた宮廷美術の発達した社会では王宮に所属する工芸家達の工房があり、宮廷からの需要に応えるため、親方を頂点とする徒弟制度によって修行した専門の職人達が腕を競い合った。しかし宮廷美術を持たなかった社会においては木彫は民間(伝統的地域共同体または個人)の需要によって製作された。そのような社会の多くには専門の彫刻家というものは存在せず、カースト制度を持つ民族社会においては鍛冶屋(→鉄参照)が本業と仮面・彫像製作を兼業することが多い。またその仮面を用いる特定の秘密結社の構成員が仮面の製作にあたることもある。
いずれの場合にしてもそれぞれの社会の中で仮面.・彫像を作ることのできる人間というのは厳密に定められていて資格を持たない者がそれを行なうことはない場合が多い(バウレのように自由な職業選択の結果として彫刻家になる場合もある)。木彫製作者は通常、森の奥や荒野など人目につかない場所でそれらの製作を行なう。
アフリカの彫刻は、芸術家の自己表現としての芸術ではなく、常に社会的・宗教的な要請によってつくられ伝統社会の世界観と密接に結びついている。アフリカの多くの民族社会に共通する特徴として「宇宙に内在する力」への信仰がある。アフリカの彫刻はまさにアフリカの世界観を木から彫り起こし、宇宙に内在する力をかたどったものに他ならない。 |
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アフリカの仮面
〜人界と異界をつなぐもの〜
アフリカの伝統社会の中で仮面は重要な役割を果たしている。仮面を製作・使用する民族の祭礼・儀式では仮面が中心的な役を演じるが、その重要性ゆえに、仮面を作っているところを人に見られてはいけない、とか、女子供は仮面を見てはいけない、などのタブーをもつ社会も多い。
しかしアフリカでは仮面そのものに価値を見出す社会は少ない。仮面はそれに対応する衣装、被り手の三者が祭礼・儀式(農耕祭、葬式、通過儀礼、秘密結社の儀式など)の場に現れることによってはじめて神話的・宗教的な意味を持ち、被り手(踊り手)は、人ではなく仮面に宿る精霊や祖霊そのものとみなされる。
そのため祭礼が終わったあとは仮面を廃棄してしまう民族も多く(次の年の祭礼時にはまた新しく作る)、そのことは気候的な要因と並びアフリカの仮面で古いものがあまり残っていない原因のひとつとなっている(古い時代の仮面はほとんど残っていない。古くても数百年程度)。
西、中部アフリカでは仮面結社を持つ民族も多く、その社会では仮面を用いた儀式をつかさどるのは結社成員である。いずれにせよ精霊、祖霊、超常力のよりしろとなるべき仮面は、アフリカ人の世界観を木から彫り出したものであり、その生命力と独創性に満ちたかたちは見る者をあきさせない。
アフリカの仮面には顔にかぶる仮面(日本で言う仮面のイメージに最もよく合致するタイプの仮面:作例も一番多い)のほか、ヘルメット型仮面・頭上面などもある。
ヘルメット型仮面:顔ではなく頭に帽子のようにかぶる仮面。そのまま顔面まで覆うタイプのものもある(セヌフォの火を吹く仮面、ヨルバの仮面:ゲレデなど)。
頭上面:上記のヘルメット型仮面と区別しがたいものもあるが、カゴや革で作った帽子の上に取り付けて使用するタイプの仮面(彫像)。仮面としての機能を持つが、踊りの衣装や頭上に取り付けるための帽子などから切り離されて、形状だけで見る場合は彫像のように見える(当店でも便宜上、仮面ではなく木彫り像として分類している)。(バガのニンバ像、バンバラのチワラなど)
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アフリカの木彫り像
〜超常的な力の導き手〜
仮面が共同体の祭礼の場など人々の前で用いられる公的な性格を持つのに対し、彫像はあまり人目に触れることのない神殿や社の奥、家の祭壇などに安置されることが多く、私的な儀礼に使用されることが多い(人目に触れる場所:家の入り口や村の入り口等において悪霊などが入ってこないようにするものもある)。
アフリカの彫像は主に呪術用彫像、非物質的なものがのりうつった像、記念碑的彫像の三つのタイプに分類できる。
呪いをかけるため、あるいは病気平癒、幸運をもたらすことを願って用いられる呪術用の彫像。神をかたどった、または祖霊や精霊の憑代としての彫像。神話・伝説の登場人物・出来事をあらわした彫像や、王の像などの記念碑的性格を持つ彫像。
前二者は主に私的な祈りの対象であるが、いずれのタイプの彫像も伝統社会の宗教的意味を体現しているものであり、彫像を通してアフリカの世界観・宗教観にふれることができる。
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アフリカのいす・その他の民具
〜生活の中の造形美〜
アフリカの人々はその優れた彫刻の才能を仮面や彫像の製作だけではなく、生活の道具をかざるためにもおしみなく発揮している。
椅子をはじめ枕やベッドなどの寝具、柱、扉、食器(器、スプーンなど)、容器(物入れ、遺骨箱など)、道具(臼、紡錘車など)、など木で作るありとあらゆるものにそれぞれの形状・機能を活かしながらも時に繊細、時には大胆に装飾をほどこす。
それらの民具の中には王侯貴族、首長の威信財として製作・使用される場合も多く、そのような性格を持つ物には特に入念な細工(多くは王権にかかわる神話・伝説を描いた装飾、もしくはそれらを意味する文様)が施される。
アフリカの彫刻は全て宗教的なものだといっても過言ではないが、民具における装飾もまた民族社の宗教や世界観と密接に結びついているものであり、そういった民具をとおしてアフリカの豊かな精神世界の一端が見えてくる。 |
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アフリカの木彫特集Uは2014年10月末日をもって終了しました |