ソープストーン製動物増(ネコ) |
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*本稿は2015年9月の「アフリカの彫刻特集」コラムに、加筆訂正・写真の入れ替え等したものです。
*特に断りがない限りこのページ内の「アフリカ」とはサハラ以南アフリカをさします
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〜アフリカの彫刻〜
アフリカの彫刻と聞けば誰もが思い浮かべるのが、アジアや西洋美術に無い独特の力強い造形美を誇る木彫りの仮面や像だろう。実際、アフリカ美術の本などでも大半のページが木彫に割かれることがほとんどであるが、アフリカが世界に誇る造形美術は何も木彫に限ったことではない。
その美術性の高さで世界を驚かせたイフェ、ベニンのブロンズ彫刻やヨーロッパ人交易者が争うように求めた象牙彫刻、数千年の歴史を持つテラコッタ塑像など、広大なアフリカ大陸では様々な素材による彫刻/彫塑が盛んに作られてきた。本稿ではそのなかで木彫以外の代表的なものをいくつかを取り上げて紹介していく。 |
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〜骨・角・牙彫〜
牙彫(げちょう、またはげぼり)は主に象牙などの動物の牙・歯を素材とした彫刻。
象牙は牙状にのびたゾウの門歯であり古来ユーラシアでは装飾品の材料として珍重されてきた。アフリカは古くから象牙の供給地として知られ西・中部アフリカ産の象牙はサハラ縦断交易によって、東・中部・南部アフリカ産のものはインド洋交易によって外の世界へと運ばれていた。
アフリカの象牙細工としてはベニン王国で宮廷美術として発達した象牙細工が有名だが、これははヨーロッパ人の交易者が争うように求めたほど高度な水準に達していた。
15C頃から始まった大西洋交易で来航したヨーロッパ交易者のために西アフリカでつくられた象牙細工はアフロ=ポルトギーズと呼ばれベニン王国のビニ=ポルトギーズ、現シエラレオネに住むテムネ、シェルブロのつくったシェルブロ=ポルトギーズが最高のものとされた。
現在ではワシントン条約によって象牙の国際取引は基本的に禁止されている。そのため一昔前は西アフリカのいくつかの国で堂々と軒を並べていた象牙細工物屋も今では(少なくとも表通りからは)姿を消しているが、象牙細工の伝統を生かしイボイノシシの牙、大型哺乳類の骨・偶蹄類・奇蹄類の角などの代替素材を用いた彫刻が盛んである(*骨や角を使った彫刻は象牙取引が禁止される前から存在していた)。
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*写真:ビニ=ポルトギーズの塩用容器(15C前半:ベニン王国製) |
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〜石彫〜
サハラ以南のアフリカでは石を用いた彫刻の作例が(少なくとも考古学遺物、伝統彫刻の分野では)非常に少ない。先ほどからアフリカ美術関連の本をひっくり返して調べているのだが、西アフリカに関してはシエラレオネ/ギニアとナイジェリアの例しか見つからなかった。
そもそもアフリカでは石を使った建築などの例もセネガンビアの巨石遺構や南部アフリカ(ジンバブウェおよびその周辺地域)の巨石建築などが思いつくくらいである。ジンバブウェの巨大な石造建築群の遺跡からは、石鹸石製の鳥像なども発見されているという。
一方、北アフリカ・エチオピアなどには石造建築や石碑、石彫工芸の例が多く遺されている。サハラ沙漠地域でもサハラ岩面画の一部に石刻壁画がみられる。
現代では主に滑石/石鹸石/ソープストーンを材料とした彫刻/工芸品がいくつかの国:ニジェール・トーゴ・ジンバブウェ・ザンビア・ケニア・エチオピアなど(他にも私が知らないだけでたくさんの国で作っていると思う)でさかんにつくられている。また、セネガルの首都ダカールで一抱えもあるような大きな石(岩)を使った彫刻をいくつも見かけたが、もちろんそんな重たいものは持ってこられなかった。
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*写真:コンゴ民主共和国西部ボマ地方の滑石製彫像(墓用) |
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〜粘土塑像〜
アフリカに関する他の事物と同様にサハラ以南のアフリカ(以下単にアフリカと記述)の土器の歴史もその起源ははっきりとしたことはわかっていない。最近の調査・研究によればアフリカ最古の土器はマリ中部バンジャガラ地方ウンジュグで発見された土器片でその年代は新しくとも1万1千年前と推定されている。また、サハラ地域やその北方の北アフリカからも1万年前前後の土器が多数発見されはじめている。
アフリカの土器文化でよく知られたものはナイジェリア中北部ジョス高原に前1000年頃〜後200年頃にかけて栄えたノク文化であろう。代表的な遺跡の名をとってノク文化と呼ばれるアフリカ最古の鉄器文化は、粘土製の彫像(人物像、動物像等)でも有名であり、これらの土偶はサハラ以南のアフリカの彫刻文化として現在遺物が残っている中では最古の物の一つである。同じくナイジェリアのイフェ王国でもブロンズ彫刻と並んでアフリカ美術史上最高峰とも言われる精巧なテラコッタ彫刻が作られていた。
また前4Cごろ〜15Cごろにチャド湖畔に栄えたサオ文化(チャド文化)においても人をかたどった粘土像がつくられ、仮面をつけた人物像と考えられている一群の粘土像はアフリカの仮面文化の貴重な資料となっている(仮面は木製のため古いものはあまり残っていない)。さらに上記マリのバンジャガラ地方の北を流れる大河ニジェール河流域では中・下流域一帯:マリ・ニジェール・ナイジェリア・ちょっと外れるけどブルキナファソなどから、古いものでは紀元前2世紀頃にさかのぼると見られる素焼きのつぼ、塑像が大量に出土している(ジェンネ=ジェノから出土した粘土像群は有名)。
現代でもカメルーン・コンゴなどの中部アフリカを中心に精巧な細工を施した土器製の喫煙パイプや人形(土偶)が数多く作られている。これらの粘土塑像は基本的には素焼きであるが、なかには焼き上げた土器がまだ熱いうちに植物原料の液体をかけてその液体の成分を土器の表面に焼きつかせて彩色、防水加工をする黒陶(黒くなるためこう呼ばれるがいわゆる陶器:ガラス質の釉薬を使うものとは違う)や、焼成前に赤土の泥漿を塗りつけ、赤茶けた色の土器を焼きあげるものもある。さらには焼成後にさまざまな顔料で彩色を施すものもある(泥土・石灰・煤・油・黒鉛など実に多様なものが使われる。美的効果とともに透水性を低くする効果を持つことも多い)。
*写真:完全武装したベニン国王像(素焼き+ビーズ装飾)/ナイジェリア
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〜ブロンズ/金属彫刻〜
*ブロンズ/金属彫刻は割引対象外となります
アフリカの青銅器文化の中心はなんと言っても西アフリカのナイジェリアであろう。サハラ以南のアフリカ最古の(と推定される)青銅器文化・イボ=ウクウ文化は紀元後9C頃から現ナイジェリアのニジェール河下流域、現在主としてイボ民族が住んでいる地方に栄えた。イボ=ウクウの青銅彫刻は失蝋法で造られている。その様式は非常に緻密かつ装飾的であり、後のイフェ、ベニンの青銅彫刻等とはかなり異なっていて、時代的・地理的に言ってイフェ・ベニンとの関連がないとは考えにくいものの、それらの文化との関連はいまだ定かではない。
少し時代が下った11・12C頃から現ナイジェリア南西部、ニジェール河下流域の西に栄えたイフェ王国もまたテラコッタ・青銅の彫刻で有名である。ヨルバ諸国中最古の王国といわれ、ヨルバ諸国中で特権的な地位にあったイフェでは宮廷美術も発展し、有名なイフェの青銅またはテラコッタ製の彫刻はその写実性と完成度の高さにおいて、世界的に見ても最高の水準に達していると評価されている。
そのイフェから失蝋法によるブロンズ彫刻の技が伝えられたといわれているのがベニン王国である。ベニンは現ナイジェリア南西部ベニンシティーを都とし、13Cごろに形成されたエド人の王国であり、 初期にはベニンシティー周辺のみを支配する都市国家であったが、15C半ばにはすでにかなりの規模の国家となっていた。15C半ばに即位したエウアレ王の治世下さらに領土を拡大し、国家組織の整備に努めた。その後も英明な君主が何代か続き(エシギエ王など)、ヨーロッパ人との交易(15C末〜)で栄え、16、7Cには東ギニア最大の国となった。
王権が非常に強かったベニン王国では宮廷美術が発展し、アフリカ美術史上最高の青銅器文化とも言われるベニンのブロンズ彫刻が花開いた。さまざまな場面でのオバ(王)の姿を浮き彫りにした青銅版は非常によく知られている。
これらの他にも、現ナイジェリア領ニジェール河下流域にはいくつかの青銅器文化が発展し、ツォエデ王の彫刻と呼ばれるヌペあるいはイダ王国製のブロンズ像や、ニジェール河下流域で発掘された、ベニン彫刻との関連がうかがわれるいくつかの青銅彫刻群がよく知られている。
一方現ガーナなど金が豊富に取れる地域では、金の計量のためにブロンズ・真鍮製などの分銅が盛んに作られてきた。当初は単純な幾何文様が刻まれていた分銅はやがて、失ろう法によって複雑な文様・ことわざ・様々な動植物をかたどったミニチュア工芸品へと進化していった。ガーナ共和国をはじめとするアカン系住民の多い地域では今日でもこの伝統を受け継いだブロンズのミニチュア彫刻が多く作られ、地域を代表する工芸品のひとつとして知られている。
現代西アフリカにおけるブロンズ彫刻・工芸の中心地のひとつがガーナの北に位置するブルキナファソであり、これらのブロンズ彫刻はブルキナファソの現代工芸の代表格として人気が高く、ブルキナの首都ワガドゥグにはブロンズ工芸の専門店が軒を並べている。
モチーフも動植物から人像、仮面・立像などの伝統的な木彫をモチーフにしたものまで幅広く、様式も写実的なものから、モチーフの特徴を強調・デフォルメした造型のものまで、伝統的なものからモダンなものまで様々である。この造形の多様性は金属の持つ高い可塑性に負うところが大きい。木という材質の持つ制約を離れいっそう自由な造形が可能な金属彫刻の特長を生かし、実に多様な作品が生み出されているブロンズ彫刻は、アフリカのモダンアートのひとつの可能性として大いに注目されている。
*この項で一括して青銅・ブロンズ彫刻として記述したものの中には鉛の含有量が多く
青銅よりむしろ真鍮(黄銅)と呼ぶべきものも含まれている。
*写真(一枚目)はベニンやイフェのブロンズ彫刻のレプリカ、
二枚目はブルキナファソのブロンズ彫刻師とその弟子が作業しているところ
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アフリカの彫刻特集は2019年11月末日をもって終了いたしました
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