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ブロンズ工芸特集は2010年4月末日をもって終了しました







 アフリカ美術の一角を彩る青銅芸術。

 古代から培われてきたアフリカの鋳造技術を受け継いだ現代の匠たちは今日も冷たい金属の塊に生命の温もりを吹き込み続けている。
 ドラム奏者のブロンズ像(ブルキナファソ) 過去の特集を見る>>

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〜青銅・ブロンズとは?〜
 青銅・ブロンズとは銅に錫(すず)を加えた合金であり、人類史上最古の金属器のひとつである(前3000年ごろ〜・於メソポタミア)。銅に錫を加えることにより硬度がまし、人類は初めて農具、武器など強度が必要な道具を金属器として作ることが可能になった(銅のみだとかたさが足らずその類の道具の原料としては不適当)。日本語の表記「青銅」からよく青緑色と誤解されるがブロンズの色は黄金色から白銀色・赤銅色まで添加金属の成分・比率により幅広く変化する。年月を経たブロンズは酸化して緑青(銅のさび・青緑色)をふくため青い銅=青銅の名がついた。

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〜アフリカの青銅器(ブロンズ)文化〜
 ユーラシアの多くの地域で紀元前から青銅器時代が現出したのに対し、アフリカにおける青銅器文化はかなり下った時代に現れる(議論の余地もあるが概ねAD9Cのイボ=ウクウ文化サハラ以南のアフリカにおける最古の青銅器文化と考えられている)。世界の多くの古代史で石器時代→青銅器時代→鉄器時代という流れが見られるのとは対照的に、サハラ以南のアフリカの大部分の地域では石器時代→鉄器時代→青銅器文化という歴史の流れが見られる。

ブルキナファソのブロンズ細工師 ここで注意したいのはサハラ以南のアフリカにおいては青銅器時代ではなく青銅器文化であるというところである。青銅器時代とは文字通り、強度に優れた鉄器が発明・普及する以前の、金属を原料とする道具のほぼ全てが青銅・ブロンズでつくられていた時代のことである。アフリカでは青銅器の発明(もしくは伝播)以前にすでに道具として優れた強度を持つ鉄器が普及していたため、青銅・ブロンズの使用は装身具・威信財などの用途に限られていた。

 サハラ以南のアフリカの鉄器文化の起源ははっきりと解明されていないがBC6〜5Cにかけての遺跡(現ナイジェリアザリア地方のノク遺跡など)で鉄器使用の痕跡が見つかったことから、その頃が西アフリカの鉄器文化の幕開けであろうといわれている。起源、伝播経路については諸説あり、エジプトメロエ起源説、独自発見説などがあるがいまだ結論を得ていない。

 サハラ以南のアフリカで青銅器に先行して鉄器使用が始まった理由としては、アフリカでは鉄鉱石が地表・地表近くで比較的容易に採集できたのに対し、銅鉱脈が採掘しにくかったということが考えられる。事実有名なベニンの青銅彫刻も原料
 ブルキナファソのブロンズ細工師。ろう型を作っているところ。 のかなりの部分をヨーロッパ(ポルトガル)からの輸入に頼って
                              いたと考えられている(アフリカに銅鉱石が無いわけではない。むしろコンゴ民主共和国南東部からザンビアにかけてはコッパーベルトと呼ばれる世界最大級の銅産地であるが、当時の技術では地中深くにある銅鉱脈の採掘が難しかった)。

 9世紀頃から始まったと考えられるサハラ以南の青銅器文化であるが、そのほとんどが装身具・威信財であったことは前述のとおりであり、それらの青銅器の多くは失蝋法という技法でつくられていた。失蝋法とは金属鋳造技法の一つであり、通常は融点の低いブロンズ・真鍮などの金属を使った鋳造に用いられる。蝋で作った型を蝋抜きの管をつけて粘土で包み、粘土を熱して蝋が流れ出た空洞に溶けた金属を流し込むという鋳造法であり、粘土を壊せば蝋型と同じ形をした青銅、真鍮などの像が得られる。


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 アフリカの青銅器文化の中心はなんと言っても西アフリカのナイジェリアであろう。サハラ以南のアフリカ最古の(と推定される)青銅器文化・イボ=ウクウ文化は紀元後9C頃から現ナイジェリアニジェール河下流域、現在主としてイボ民族が住んでいる地方に栄えた。イボ=ウクウの青銅彫刻は失蝋法で造られている。その様式は非常に緻密かつ装飾的であり、後のイフェベニンの青銅彫刻等とはかなり異なっていて、時代的・地理的に言ってイフェ・ベニンとの関連がないとは考えにくいものの、それらの文化との関連はいまだ定かではない。

 少し時代が下った11・12C頃から現ナイジェリア南西部、ニジェール河下流域の西に栄えたイフェ王国もまたテラコッタ・青銅の彫刻で有名である。イフェはヨルバ諸国中最古の王国といわれ、天の神がイフェの初代王オドゥドゥワをイフェの地に遣わし、イフェ王国が生まれ、その後各地イフェやベニン王国のブロンズ彫刻のレプリカに建てられたヨルバ諸国の建国者はすべてこのオドゥドゥワの息子であるとの伝承を持つ。そのためイフェ以後のヨルバ諸国はイフェをヨルバ発祥の地としてあがめ、宗主国として、また宗教的聖地として尊重したので、イフェは世俗的なの国力はさほどでもなかったにもかかわらず全ヨルバ諸国の中で特権的な地位を享受していた。ヨルバ諸国中で特権的な地位にあったイフェでは宮廷美術も発展し、有名なイフェの青銅またはテラコッタ製の彫刻はその写実性と完成度の高さにおいて、世界的に見ても最高の水準に達していると評価されている。

 そのイフェから失蝋法によるブロンズ彫刻の技が伝えられたといわれているのがベニン王国である。ベニンは現ナイジェリア南西部ベニンシティーを都とし、13Cごろに形成されたエド人の王国であり、 初期にはベニンシティー周辺のみを支配する都市国家であったが、15C半ばにはすでにかなりの規模の国家となっていた。15C半ばに即位したエウアレ王の治世下さらに領土を拡大し、国家組織の整備に努めた。その後も英明な君主が何代か続き(エシギエ王など)、ヨーロッパ人との交易(15C末〜)で栄え、16、7Cには東ギニア最大の国となった。

 王権が非常に強かったベニン王国では宮廷美術が発展し、アフリカ美術史上最高の青銅器文化とも言われるベニンのブロンズ彫刻が花開いた。様式化された大きな
        イフェベニン王国などのブロンズ彫刻のレプリカ  
瞳と鼻、彫刻中の人物が身につけている衣類や装飾品
の緻密な描写などが特徴であり、さまざまな場面でのオバ(王)の姿を浮き彫りにした青銅版は非常によく知られている。やたらと金の話をするは卑しいような気もするが、ベニン王の頭部をかたどったブロンズ像が2007年に470万ドルで競り落とされたことがあることからもわかるとおり、世界的に非常に高い評価を受けている。

 これらの他にも、現ナイジェリア領ニジェール河下流域にはいくつかの青銅器文化が発展し、ツォエデ王の彫刻と呼ばれるヌペあるいはイダ王国製のブロンズ像や、ニジェール河下流域で発掘された、ベニン彫刻との関連がうかがわれるいくつかの青銅彫刻群がよく知られている。

 一方現ガーナなど金が豊富に取れる地域では、金の計量のためにブロンズ・真鍮製などの分銅が盛んに作られてきた。当初は単純な幾何文様が刻まれていた分銅はやがて、失ろう法によって複雑な文様・ことわざ・様々な動植物をかたどったミニチュア工芸品へと進化していった。ガーナ共和国をはじめとするアカン系住民の多い地域では今日でもこの伝統を受け継いだブロンズのミニチュア彫刻が多く作られ、地域を代表する工芸品のひとつとして知られている。

ブルキナファソのブロンズ細工師 現代西アフリカにおけるブロンズ彫刻・工芸の中心地のひとつがガーナの北に位置するブルキナファソであり、100kgはありそうな巨大なものから、小指の先ほどの小さなものまでさまざまなブロンズ彫刻が作られている。これらのブロンズ彫刻はブルキナファソの現代工芸の代表格として人気が高く、ブルキナの首都ワガドゥグにはブロンズ工芸の専門店が軒を並べている。

 モチーフも動植物から人像、仮面・立像などの伝統的な木彫をモチーフにしたものまで幅広く、様式も写実的なものから、モチーフの特徴を強調・デフォルメした造型のものまで、伝統的なものからモダンなものまで様々である。この造形の多様性は金属の持つ高い可塑性に負うところが大きい。木という材質の持つ制約を離れいっそう自由な造形が可能な金属彫刻の特長を生かし、実に多様な作品が生み出されているブロンズ彫刻は、アフリカのモダンアー
  ブルキナファソのブロンズ細工師。弟子がふいごで火を起こしている。   トのひとつの可能性として大いに注目されている。

*この項で一括して青銅・ブロンズ彫刻として記述したものの中には鉛の含有量が多く
 青銅よりむしろ真鍮(黄銅)と呼ぶべきものも含まれている。

〜現代の匠たちによって命を宿した
アフリカのブロンズ工芸の数々をご覧ください。〜
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